ウェブ標準表記Blogは、自社の表記の基準を考えるときに「役に立つ、かもしれない」情報を皆さまと共有することを目的としています。これから会社の表記基準をつくろうとしている方やWebテキストの校正を担当する方、これから文章を書こうとしている方とともに、表記の視点を身近な例から考えてみたいと思います。また、現在進行中の「新常用漢字表(仮称)」に関する最新情報などもお届けします。
2008年11月17日
助動詞
「かな書きが望ましい」助動詞ってナニ? というところで終わったエントリー「テキスト品質の標準化」のつづきです。
たとえば会社で上司から「助動詞はひらがなにしておいてくれたまえ」と言われたとしましょう。――「助動詞ってたしか中学で習ったような…。定かには思い出せない(汗)。でも、ここで助動詞って何ですか?と聞くのはマズすぎる、そうだ(後で、調べればなんとかなるさ)」→(明るく)「はい、分かりました!」――。
しぶしぶこのような振る舞いをしてしまうことも、長い人生一度や二度、誰にでも訪れるものです。私たちがふだん誰かと話すときには、話す言葉と文法を同時に意識しているわけではない、というか、とくに言語化をしない瞬時の反応にもとづいて話しをしているので、あらためて文法用語で名指しされると思考がパニックに陥ってしまうのです。が、分からないとは言えない日本人としてのプライドのようなものが邪魔をして、つい分かったふりをしてしまう…、品詞を表す用語って、日本語ネイティブにとってそんな存在なのではないでしょうか。
通念
日本語を学問として研究している分野では、助動詞についての考え方も一様ではないようです。解釈のちがいなどの学術的な論争があるようですが、日常業務として文字に接するものには、拠って立つところを“社会通念”に据え、かつ、相手の方が言う“助動詞”の中身を正確に理解して文書に反映する技術をもつことが求められてきます。
助動詞と禅
助動詞とは何か ―― 自分の理解が心許ないまま専門用語を目指したところで、川端で蘆に足を取られて溺れるのが落ち、まず、自分に納得のいく解釈を得たいと思い、さまざまな解説書を読んでみましたが、ストンと腑におちてくるものがなかったため、いつものように、分からないものはまずイメージして絵に描いてみる、というアプローチを試みることにしました。
視界いっぱいに広がる四里霧、五里霧の中の彷徨、手ごたえらしきものに擦る(かする)こともないまま月日がたったのですが、読んでいた剣豪小説の影響か、ふと、剣術の構(かまえ)、捌(さばき)、勢(いきおい)などからイメージの萌し(きざし)を覚えました。とっかかりができると、相(aspect, phase)、法(modality, mood)、態(voice)など、英語の進行相、完了相などにひもづいてゆき(「ひもづく」を初めて使ってみましたが、合っていますか?)、次には、どうもこれらの字の行き着く先に、禅の世界があるのでは?というイメージの奔流にもまれながらも、ついには、自分の感覚にぴったりくる言葉に漂着したのでした。
有相無相
禅でいうところの「無相(むそう)」、対義語に「有相(うそう)」があって「有相無相(うぞうむぞう・うそうむそう)」という四文字熟語を形成するのですが、筆者の得手勝流の解釈では、助動詞とはつまり、無相(ただ動くこと)から有相(理由をもつ動き)へと相を変化させる介妁(かいしゃく)語だ、というところに納まりました。
ただ動くとはたとえば、「茶の湯とは ただ湯を沸かし茶をたてて 飲むばかりなること」と千利休(せんのりきゅう)も言っているような状態のことだと思われます。
無相を有相に変えるものとは、「~したい、~させたい、~してほしい」の願望、「~のようだ、~らしい」の推量、「~そうだ」の伝え聞き、「~です」の対象を説明する詞などです。一切の色をもたない、ただ動く、という事象に色を着けるもの、それってつまり「色即是空」、「空即是色」の世界観に通じるものでは?と思ったときに、見えた!気がしたのでした。その時、歴史が動いた ― 垂れ籠める霧を追いやって空中に忽然と顕れた青山の稜線のごとく、連綿として途切れることのない事象の連続を表現する役割を担ってきた「助動詞」―。
最近の例では、籠中の篤姫の後ろ髪を引かれる思いと、後の帯刀(たてわき)の遣らずの雨(涙)によって流れを止められた白い時間、松坂慶子演じる幾島の発した「発(た)ちませ~!」によって、一刀両断された二つの思い。この幾島の鶴のひとこえが抗いがたい強制力を持ちえたのは、「ませ」という助動詞に軽い命令の意味が含まれていることを、その場に居合わせたすべての人が分かっていたからなんですね~。
今回は、助動詞とは何か、納得できる言葉を探す私的な旅に行ってきた、ただそれだけのことでした ―― ではなくて、テキスト品質を均一なものにするために、助動詞はひらがなで書くということを理解するために食った道草。
(福島)
2008年11月13日
問題になる字体
前回のエントリー「第27回 文化審議会国語分科会 漢字小委員会 傍聴報告」に、“字体が問題になってくる30~31字(※)”と書きましたら、具体的にどの字を指すのか、というお問い合わせをいただきました。お答えといたしましては、審議の中で、どの字が問題になるというような具体的な検討がなされたわけではなく、だいたいこのぐらいの数の字が問題になる、という意見があったという程度の位置づけです。一字一字についての具体的な検討は、委員会内のワーキンググループで進められると思いますので、30~31(※)という数字も変わる可能性を含む、とお読みいただければと思います。どの字が問題になるかという“統一的な見解”が示された段階ではありません。
やはり気になる
とはいえ、文字の周辺にいるものにとって、どの字が該当するかは、やはり気になるところです。自分の認識が合っているかどうか、腕試しにやってみた、という方も多数いらっしゃったようです。
字体とデザイン
どの字が“問題”に該当するかを考える前に、復習をしておかなければならない点がいくつかありますので、思いつき順の筆まかせに挙げてみたいと思います。
字体の意味
常用漢字表でいう“字体”とは、“文字の骨組み”のことを指します。
字の表現
同じ意味をもつ字でありながらも、微細なところで形の相違のみられるものについては、それらを字体の違いとみなすのではなく、多くは活字設計上の表現の差(=デザインの差)に属する事柄であり、字体の上から問題にする必要のないものがある、としています。
デザインの違いであって、字体の違いではないとされる例として、
1. へんとつくり等の組み合わせ方における
- 大小、高低(例 硬の石の位置、吸の口の位置)
- はなれている、接触している(例 睡の目と垂のアキ加減、異の田と共のアキ加減)
2. 点画の組み合わせ方における
- 長短(例 雪、満、無、斎などに含まれる一線の長短)
- つける、はなす(例 発のはつがしらの部分、備、奔、空、湿、吹などに含まれる要素の一の位置)
- 接触の位置(例 岸、家、脈、蚕、印などの一要素の交わる部分)
- 交わる、交わらない(例 聴、非、祭、存、孝、射などの線と線の交わり)
3. 点画の性質について
- 点か棒(画)か(例 帰の篇(へん)のかたち、班、均のンのかたち、麗の音符
のかたち) - 傾斜(角度)、方向(向き)(例 考、値、望(月の左下流れ))
- 曲がり方、折り方(例 勢の丸のかたち、競・頑のルの折り方、災のくの折り方)
- 筆押さえの有無(例 芝の之の押さえ、更・
、八、公、雲の雨かんむりの中の点々(または二)のかたち) - とめるか、はらうか(例 環、泰、談、医、継、園のはらいの部分)
- とめるか、ぬくか(例 耳、邦、街のとめの部分)
- はねるか、とめるか(例 四・配・換のルのかたち、湾のノの右側の縦線のかたち)
などがあります。これらは書道の筆遣いの一要素と重なるのでしょうか、「とめ、はね、はらい」の収筆(終筆)、「折れ、曲がり」は、字体の違いではなくデザインの違いであると理解しておけばよいようです。
人名用漢字
現行の人名用漢字総数は903字
昭和56年の常用漢字表の答申に合わせて、人名用漢字は戸籍法等との関連が強いとして、法務省が管轄することになりました。その人名用の漢字は、現在は903字ですが、このうちの127字が、次の「新常用漢字」の候補漢字としてすでに情報公開されています。新常用漢字の候補にあがっている漢字の現在の総数は191字ですが、そのうちの127字が人名漢字からの水平移動になりますので、現行の人名漢字の内容を把握しておく必要があります。ところでこの「人名漢字」という呼称ですが、人名漢字を掲げている「戸籍法」に「人名漢字」という表現は見当たらず、「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」とはじめのことわりがきて、常用平易な文字の一として、「別表第二に掲げる漢字」という表現をもって人名漢字を指しています。みょうに遠まわしな、思わせぶりな表現であると感じるのは筆者だけではないと思いますが、ここではイレレバントなので本題に戻し、人名漢字983字の構成をおさらいしてみます。
一 丑(うし)から始まる774字
二 亜(亞)から始まる209字
一の常用平易な漢字と常用漢字ならびに片仮名、平仮名を子の名として使えることが戸籍法施行規則にうたわれています。では、二の209字は何かといいますと、これが、字体の問題にからんでくるのですが、二は、すでに常用漢字になっている漢字(通用字体として提示されています)とのつながりを示すために参考までに掲げるものであり、括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る、という注意書きがあります。つまり、亜子さんは○で、亞子さんは×と言っているのです。
相互に同一の字種
一の774字の中に、相互に同一の字種であるとみなされている“漢字のペア”が19組含まれています。その19組を以下に示します。
(文字化けを避けるため、画像として掲載しています )

表外漢字字体表
2000年12月、国語審議会は、字体が混迷の様相を呈している社会状況に鑑みて、常用漢字以外の漢字(表外漢字)1022字の字体の選択のよりどころとして表外漢字字体表(印刷標準字体)を示しました。これらの1022字には、一般に正字といわれる康煕字典体とは異なるものも含まれています。それらについて審議会は、「漢和辞典における正字体として,「印刷標準字体とされなかった康熙字典の正字体」を掲げることについては,これらを妨げるものではない」とあります。ここまでよろしいですか? この辺りでそろそろ…となりそうですが、あと少しおつきあいください。
この1022字の中に、今回候補漢字となった字も含まれていますから、
問題1として、表外漢字字体表で示されている字をさきの常用漢字にならって簡易化するのかどうか?
問題2として、現行の人名漢字で相互に同一と認められている字と同様の篇(へん)や旁(つくり)をもつ漢字の扱いはどうなるのか?
ワーキンググループ
漢字小委員会のワーキンググループにおいて、上のような観点のほかに、文化の継承性、日本語学上の観点など、高度な専門的な見地からの字体の検証が行なわれて、“問題になる字体”が特定されるものと思われます。現時点でそれらは示されておりません。
トライ
読者の皆様の中には、すでにそれらの字の特定に取り組んでいる方も多数いらっしゃるようです。あまり大きな声では申しあげられませんが、もちろん筆者もやってはみました。が、考慮事項が多すぎてわかりませんでした(皆さまからお寄せいただいた予想該当漢字と比較してみましても、思いっきり異なっておりました)ので、たいへん恐縮ですが、審議の結果をお待ちくださいませ。
(福島)
※
2008年11月20日
読者の方からのご指摘をうけ、引用元の記事を以下のとおり修正いたしました。
修正前: 字体が問題になってくる30~31字
修正後: 字体が問題になってくる30字ほど
2008年11月12日
第27回 文化審議会国語分科会 漢字小委員会 傍聴報告
11月11日 第27回審議の配布資料は以下のとおりです。
資料1:第26回国語分科会漢字小委員会・議事録(案)
資料2:「追加字種(191字)表」(人名漢字との対応表)
資料3:「常用漢字(音訓・付表)」の変更について・2(案)
資料4:これまでの漢字施策について(付:人名用漢字)
参考資料1:「戸籍法及び戸籍法施行規則(抄)」(『公用文の書き表し方の基準(資料集)増補二版』(文化庁,平成17年,第一法規)から抜粋)
参考資料2:文部省活字(江守賢治『解説字体辞典』(三省堂,昭和61年)から抜粋)
参考資料3:江守賢治『≪チョク・みことのり≫の字について』(平成19年1月)、江守賢治『≪チョク・みことのり≫の字について(続)』(平成20年2月)
県名格差
「県名のための」漢字は、日本国民として偏りなく読み書きできることが適当、という認識のもとに、県名のための11字が、新常用入りする候補漢字の提示に先駆けて示されたことは、このBlogでも何度もとりあげました。県名のための11字とは次のような、県名を構成する漢字の一字であって、まだ常用漢字になっていない漢字です。
茨 栃 埼 梨 阜 阪 奈 岡 媛 熊 鹿
上の11字の追加により、住んでいる県によって、県名を書ける子どもと書けない子どもが存在するような、地域による能力格差も薄らいでいくという期待も一部にあるようです。
県名の読み書きのうちの、“書く”はひとまず収束をみるとして、次に “読み”の問題が控えています。
大分
配布資料3「「常用漢字(音訓・付表)」の変更について・2(案)」は、1.音訓について、2.付表について、3.前回の漢字小委員会における意見の扱い等、という3つの見出しで構成されており、1.の音訓については、音訓の追加案が書かれた内容です(これについては、10月28日のエントリー「第26回 漢字小委員会 傍聴報告 ― 漢字の音訓」に詳述しました)。音訓追加案35例のうちの26番目に、分(訓:いた)がありますが、今回の審議は、この大分(おおいた)の、読み方をどこで区切るのか、という問題提起から始まりました。
(注:資料の見出しには時計文字の I II III が使用されていますが、アラビア数字に直しています)
「多き・田」「おほ・きだ」
委員のおひとりが幼少時代を大分でお過ごしになったとかで、「大分(おおいた)の分の読み方について、音訓追加案では「おお・いた」と分解して「いた」と掲載する案が出ているが、豊かなる国の意をもつ大分は「多い田」の転と解釈する字書が多く、“いた”の訓読みには違和感がある」という問題提起だったと思います(審議は発話形式で進行するため、傍聴人は字を確認することができませんので、その場で推量した字で記述しています)。
この問題提起に対し、「分は「きざ(刻む)」という意味をももつもの。語源と現代の漢字の用法とは別問題と考えるべきで、一般の人々の用法に鑑みて、その用法が漢字表の精神に合いかつ民間に浸透しているならば、それは認めざるを得ない」という見解も示されました。
ここで言われていた内容を正確に理解するため、筆者は帰社してから大分の地名の由来を調べてみました。大分の地名の由来には、「多き田」が転じて「多い田」(豊かなくにの意)になったという説と「碩田(おほ・きだ)」(“きだ”は、刻む(=分)。大分川によって刻まれた(浸食された)大地の意)説がある ― 調べたかぎりでは、このようなことだと思われましたが、これだけスパンの長い文字の歴史や学問的な解釈の話題がほんの数分で交わされたことに筆者は驚きを禁じえず、緊張感をもって審議の始まりを見つめていました。
音韻の変化
“稲妻(いなずま)”、“三日月(みかづき)”“世界中(せかいじゅう)”のように、2つの語の連合によって音韻が変化した例は日本語に無数にみられます。音韻の変化とは、フランス語の“リエゾン”のような現象で、前に来る語の発音に引かれて後の語の読み方がもとの読みから変化することを指していますが、審議では、世界中の中に「音:ジュウ」を追加することの適否に対する意見が交わされました。三日月は(三日・月)のように2語の連合によって生じた「づ」であるため「ず」ではなく「づ」と書くことが、内閣告示の「現代仮名遣い」で示されていますが、世界中の場合には、世界と中に分解できるものではなく一語と考えることが妥当であるため、これを「じゅう」と本則では表記しています(“ぢゅう”と書くことも許容するとされています)。
このような2語の連合によって音韻が変化した例のうち、袋小路(ふくろこうじ)などを例として取りあげる、取りあげないの判断が示されない理由は何か、という問題提起に対し、日本語には、垣間見る(かいまみる)、生粋(喫水?)(きっすい)、春雨(はるさめ)など、連合による音韻変化の例は挙げればきりがないほどたくさんあるのであり、「現代仮名遣い」にも、すべての例を尽くしているわけではないという断り書きがついているのであるが、「しんじゅう」とも「しんちゅう」とも読める「心中」の場合には、備考欄に、読み方によって意味が異なることを書き添えるのが妥当であるか、弥生(やよい)など、辞書によって表内訓と表外訓の解釈が異なっている実態をどうするか、などのような審議がおこなわれました。
字体
「佛」を「仏」と簡略化したような字体の整理を今回も実施するかどうかの意見交換が最後におこなわれました。
新常用漢字の候補として示されている191字のうち、字体が問題になってくる30字ほど(※)について、「現行の漢字表との整合性の観点から整理したほうがよい」という意見と、「当用漢字や常用漢字のときにおこなわれた字体整理は必ずしも統一的なものではなく、「沸」のつくりが「ム」の形にならなかったなど、一般にどの形が通用しているか、という観点も含むものであり、今、字体の混乱の時代からやっと脱しようとしているときに、再度、字体を変更することの各界の負担を考慮すれば、字体を変更することは適切ではない」とする意見などが出されました。
さらに、2000年に正式に答申された「表外漢字字体表」によって示された1022字の字体についても徐々に定着の方向にあり、JIS、情報機器分野の協力もあって、字体問題は落ち着いていく途上にある。とはいえ、之繞(しんにょう)の1点・2点は同じであることを、教育現場ではどう扱うかというような、「3部首許容」から派生する問題、また、便箋の箋を、竹冠に「浅」のつくりの部分の形の「せん」で書くことは庶民感覚に受け入れられるのか、のような具体的な例も出されました。
この意見には筆者も同感でした。字体の整理に便乗した拡張新字体というものの存在が、約四半世紀にもわたって字体の混乱を招いたことを思えば、それを追認するのでは辻つまが合わなくなってしまうと思われるからです。
漢字の読み方を決めるのも、通用字体を決めるのも、結局はそれを使用する庶民なのだ、ということにハッと気づいた瞬間でした。
情報化時代の漢字表
審議の最後は、漢字の“正字”と一般にいわれる「康煕字典体」の扱いについて問題提起がありました。漢字表で漢字の字体を「標準字体」として提示することにより、それ以外の字体は非標準=間違った字形であると認識されてしまうことを避けるために、「標準字体」という言葉を「通用字体」という表現に改めた経緯があること、常用漢字表で( )内に「康煕字典体」を示したことの意味は、日本の文化の継承のためであり、古典などの文献にこれらの字が多数出てくることへの便宜でもあるが、問題は新字体によって従来使用されていた旧字体の位置が著しくおとしめられたことにある、常用漢字表に付されている( )は355字あるが、( )「康煕字典体」の位置づけが危ういものになっており、そこに危惧を覚える、などの意見が出されました。審議は、定刻を過ぎても熱を帯びたままつづけられ、主査から「新常用漢字は、情報化社会に対応するために求められる改訂である」との漢字表の性格を確認する言葉で結ばれました。
秋
11月11日、第27回の審議は、いつもの文化庁の庁舎内ではなく、「学術総合センター」というビルの一室でおこなわれました。
ビルはその名の示すように学術の研究機関が多数入居しており、近隣には学士会館、共立大学、東京大学発祥の地の記念碑などがあります。都内でも有数のアカデミックな雰囲気を醸す街並みを右手に折れれば、小学館、集英社などの大手出版社が立ち並び、さらに歩を進めると、神保町の書店街が目に入ってきます。派手さのないビルの間に間に、紅葉した木々が華を添えて、学問と秋の深まりが一度に到来したかのような、ほろんとした温かさを懐中して、傍聴の一日を終えました。
次回の審議会は25日、試案の公開に向けて審議も佳境、月一ペースが月二となり、委員の先生がたも走る、師走、近し。
(福島)
(注:このBlogは、審議を傍聴しながら自分の言葉で解釈したままに表現して書いています。正確な速記録は後に文化庁ホームページに掲載されますので、そちらでご確認ください)
※
2008年11月20日
読者の方からのご指摘をうけ、以下のとおり修正いたしました。
修正前: 字体が問題になってくる30~31字
修正後: 字体が問題になってくる30字ほど
2008年11月 5日
テキスト品質の標準化
先月実施した「Webテキスト品質向上セミナー」でも取り上げたのですが、一企業のサイトのページ数は増加の一途で、3,000ページ規模では多いともいえない状況になってきています。それに伴って書き手の数も増えることから、「テキスト品質が一定しない」という悩みを抱える文書管理担当者が多くなってきています。
ひとくちに「テキスト品質」といっても、“品質”が指す中身は企業によって意味と実態が異なっているため、品質の均一化に着手するにはまず、現在の姿を把握するところから始めることになります。
当用漢字表 ― 使用上の注意事項(かな書き)
昭和21年に内閣告示された『当用漢字表』のまえがきに、表の位置付けや、固有名詞、簡易字体について触れた“使用上の注意事項”が示されています。
平成の現在、「~しやすい(易)」とか「~のみならず(加之)」などがかなで書かれるようになったのは、この使用上の注意事項の中に「代名詞・副詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞は、なるべくかな書きにする」という件(くだり)があったことによります。
「なるべく」と書かれていたためか、筆者が子供のころに目にした社会派の週刊誌の記事には「所謂(いわゆる)」「只管(ひたすら)」「所以(ゆえん)」「縷々(るる)」「就中(なかんずく)」「嗚呼(ああ)」などのような漢語が多数使われていましたが、それらの漢字表記は覚えて実用する前に消えてゆき、今ではひらがなで書かれるのが一般的になりました。「抑も(そもそも)」は自己流に「よくも」と読んでいたため、ちんぷんかんぷんなことでした。
其上(そのかみ)
文章や講話の中で、「そのかみ」という言葉がひらがなで年配の方によく使われていたことをおぼろげに思い出すことがあるのですが、語の意味や用い方を知る機会を逸してしまい、いくつかある“応用不能語”のひとつになりました ― 遠い其上の話です。
取り上げない
当用漢字表告示から35年を経て、改訂版として告示された「常用漢字表」では、「感動詞・助動詞・助詞のためのものは取り上げない」「代名詞・副詞・接続詞のためのものは広く使用されるものを取り上げる」との考え方を示し、感動詞・助動詞・助詞については“かな書き”にすることが広く社会に浸透したことを宣言(?)しています。
―― 上の段の言わんとすることがすんなり頭に入るという人は、かなり深く日本語を学ばれた方でしょう。しかし、“助詞・助動詞・感動詞”などの品詞分解用語を前にすると途端に、敵前逃亡もしくは不戦必勝の途を考えざるを得ない窮地に追いやられてしまう、というのが一般庶民の偽らざる姿ではないでしょうか。
かな書きが望ましい語
サイト内のテキスト品質を均一化していくためのひとつの過程として、「かな書きが望ましい」とされている語のジャンルを覚えることを避けて通るわけにはいきません。代名詞、接続詞などはわりに覚えやすいジャンルですが、助動詞・助詞の類が手強くて、助動詞の話を書くのに、ここまで字数を費やしてしまいました(つづく)。
(福島)
2008年10月31日
品質の良い文字情報
セミナー後記
先週24日(金曜日)、雨脚が白くみえるほどの降雨に見舞われた東京の西新宿にある当社のオフィスで、通算6回めになる「Webテキスト品質向上セミナー」を開催いたしました。
今回は、現場の文書管理者を悩ませるテキスト品質の不均一について考えることをメインテーマとして、人気のある他社のサイトの事例を交えながら約1時間半、お話をさせていただきました。
セミナー開始15分前になっても会場には4~5人の方がいらっしゃるばかりで、悪天候が交通の妨げをしているのに違いないと、心配な気持ちでおりましたが、開始間際にはスーツを濡らした方が無事に到着して着席されました。
天候のために参加できなかった方、雨を押してお出かけくださった方、いずれの方にも申し訳ない思いがいたしまして、「今日は絶対に喜んで帰っていただく!」と自ら士気を鼓舞してマイクのスイッチを入れました。
正と誤
日常の現場作業の中、「どちらが正しいのですか?」という表記に関する質問をよく受けます。たとえば「仔細」と「子細」はどちらが正しいのかというような担当者の迷いには、表記の方針によって異なることをお話ししました。新聞では「仔(こ・シ)」が常用外の漢字なので「子細」と統一的に表記していますが、人名漢字には「仔」が入っていますから、自社の漢字使用範囲を人名漢字までとするならば、「仔細」と書くこともできます。日本語はいわゆる正書法というものをもたないため、同一の語をさまざまに書き表すことができる点が他言語と大きく異なります。
表記については「正か誤か」の黒白を弁ずるよりも、“どちらの書き方を採用するか”という柔軟なスタイルが似合うと筆者は思っています。
排列
順番を決めて並べる意味の「はいれつ」は、「配列」と書くのが一般的です。同じ意味をもつ「排列」のほうを見かける機会はあまりないのではないかと思われますが、辞書に語や字を並べる方式を意味する「ローマ字音順排列」「五十音排列」などは、「配列」ではなく「排列」と表記される歴史の重みをもつものです。
be動詞
「こちら領収書になります」 ― この表現に違和感をもつ世代ともたない世代の比率はどのぐらいになるのか、調査をしてみると意外な結果になるかもしれません。筆者は強い違和感をもつ派ですが、まったくもたない派に属する当社の若手の営業部員が教えてくれました。“「なります」は英語の「is」と同じ「be動詞」だから、なんの違和感もない”と。ここで違和感派の認識が大きく現実からぶれていることを悟った次第です。“「なります」を丁寧語の代用として使うのは変です”という誤解。若者は丁寧語として「なります」を使っているわけではなく、単なるbe動詞として普通に使うだけで、“So What?”(それが何?)― 怪訝な眼差しを向けられたのはこちらのほうでした。
企業イメージ
文章に「キレ」がある!、文章が「親切」に書かれている!、表現が「芸術」的! ― 無数に存在する企業のWebサイトを閲覧していると、このような強力なメッセージをサイトから受け取ることがあります。その印象は企業のイメージに重なり、この文字情報にみえる品質の良さをもたらす要素は何なのか。自社のイメージにマッチする文字情報を発信するための視点。
そのような大きな課題に向かってこれからも皆様とごいっしょに「良き情報」を発信するサイトづくりを考えてまいります。
―― セミナーはだいたいこのような内容でした。
(福島)
注:「排列」と「be動詞」はBlog用に追加しました。
2008年10月28日
第26回 漢字小委員会 傍聴報告 ― 漢字の音訓
昨年竣工した「霞が関コモンゲート」は、地下2階、地上33階、周辺の高層ビル群のなかでも一段と背の高い超高層ビルです。かつて高層ビルの代名詞だった「霞が関ビル」が「弟」のように、一歩下がって隣に控えています。
今回、第26回めの審議は、コモンゲート東館の一室で開催されました。今回の審議に使用された部屋は、国際会議にも使えるような重厚感をもち、広さも十分、各委員の机には、線の細い、カーブしたマイクが一台ずつ設置されていて、傍聴席のうしろで聴いている人にも、声の低い委員の声が呼吸づかいとともに届くほど高感度で、今回は、耳の丸みに手を沿わせて懸命に音を聞きとろうとする人の姿を見ませんでした。
字種の追加と削除
第26回の時点で、追加候補字種は191字です。夏ごろには188字でしたが、「蒙」が候補から外され、新たに「刹(サツ・セツ)」、「椎(ツイ)」、「賭(ト・かける)」、遡「ソ・さかのぼる」の4字が追加されています。
「常用漢字(音訓・付表)の変更について」
今回は見出しと同じ題の資料のほかに「「異字同訓」の漢字の用法(追加字種・追加音訓関連)」、「音訓アンケート」などの資料(案)が配布されました。
音訓の追加・削除の候補として示されているものを以下に示します。
(※印がついている語は、当日議論するよう要請されているものです。)
音訓の追加等
1 愛(え) →愛媛に対応、1字下げ
2 委(ゆだねる) →音訓の使用実態に基づいて追加
3 育(はぐくむ) →音訓の使用実態に基づいて追加
4 応(こたえる) →音訓の使用実態に基づいて追加
5 神(か) →神奈川に対応、1字下げ
6 滑(コツ) →「稽」が入るので「滑稽」に対応
7 関(かかわる) →音訓の使用実態に基づいて追加
8 館(やかた) →音訓の使用実態に基づいて追加
9 堪(=語例追加) →音「カン」の語例とした「堪能」を追加、「堪能」は、「タンノウ」とも、と注記
10 阜(ギ) →岐阜に対応、1字下げ
11 混(こむ) ※「込む」との関係をどうする?
12 私(わたし) ※追加するか「わたくし」と入れ替えか?
13 児(ご) →鹿児島に対応、1字下げ。語例に「稚児」を掲げる
14 滋(シ) →滋賀に対応、1字下げ
15 臭(におう) →「匂(におう)」に対応
16 十(=備考欄に注記) →「ジッ」に「ジュッ」ともと注記
17 旬(シュン) →音訓の使用実態に基づいて追加
18 城(き) →茨城・宮城に対応、1字下げ
19 伸(のべる) →音訓の使用実態に基づいて追加
20 振(ふれる) →音訓の使用実態に基づいて追加
21 粋(いき) →音訓の使用実態に基づいて追加
22 逝(いく) →「逝った」に対応
23 拙(つたない) →音訓の使用実態に基づいて追加
24 創(つくる) →音訓の使用実態に基づいて追加
25 速(はやまる) →音訓の使用実態に基づいて追加
26 分(いた) →大分に対応、1字下げ
27 放(ほうる) →音訓の使用実態に基づいて追加
28 癒(いえる・いやす) →音訓の使用実態に基づいて追加
29 要(かなめ) ※追加するか?
30 良(ラ) →奈良に対応、1字下げ
31 絡(からめる) →音訓の使用実態に基づいて追加
32 力(リキむ) →使用できることを凡例に追加
33 務(つとまる) →音訓の使用実態に基づいて追加
34 全(すべて) →音訓の使用実態に基づいて追加
音訓の削除
1 疲(つからす) →音訓の使用実態に基づいて追加
誤読の定着
“「堪能」は、「タンノウ」とも”の件に、ぎくっとした方もいらっしゃるのではないでしょうか? 「堪能」は「カンノウ」が本来の読みですが、誤読である「タンノウ」が定着したもの、…ダソウデス。「独擅場(どくせんじょう)」の間違いである「独壇場(どくだんじょう)」が定着して市民権を得たのと同じ類の言葉の変化…ダソウデス(筆者は「カンノウ」という読み方をする人を一度も見たことがないのです。辞書によれば「足んぬ」の転で「たんのう」になったとか)。誤読も皆で使えば正論になるの例。
― 都道府県名の扱いについては、岐阜の「阜」のように、都道府県名にのみ使われる音訓に対して、備考欄に「岐阜県」と注記する。同じ都道府県名でも、東京や群馬などは注記しない。大分などは訓「分(いた)」の備考欄に大分県と注記する― という方針が妥当かどうか審議されました。
付表について
語の追加
1 尻尾(しっぽ) →音訓の使用実態に基づいて追加
2 固唾(かたず) →音訓の使用実態に基づいて追加
3 鍛冶(かじ) →音訓の使用実態に基づいて追加
4 弥生(やよい) →音訓の使用実態に基づいて追加
変更
1 居士(こじ) →「一言居士」を「居士」に変更
2 五月(さつき) →「五月晴れ」を「五月」に変更
3 (お)母さん →「お母さん」を「(お)母さん」に変更
4 (お)父さん →「お父さん」を「(お)父さん」に変更
5 (お)兄さん →「お兄さん」を「(お)兄さん」に変更
6 (お)姉さん →「お姉さん」を「(お)姉さん」に変更
7 稚児 ※「稚児」が語例欄に入るので、付表から削除
注意事項
付表の扱いの変更:付表に挙げられている語を構成要素として使用することもできる(例:河岸を魚河岸、心地を居心地として使う、など)との注がつけられています。
要望のごく狭いもの
今回の審議では、上に掲げた音訓の追加・削除のほかに、漢字表への掲載のしかたについて議論されました。先に新常用入りが確定している「県名のための」11字(茨栃埼梨阜阪奈岡媛熊鹿)について、「茨城の茨(いばら)」「岐阜の阜(ふ)」「愛媛の媛(ひめ)」などは、その字を含む“県名のための”字(または読み方)であり、これらは、「岡っ引き」「岡惚れ」などのように広く一般的に使用される語をもつくる県名の字とは異なるものである。つまり、“要望のごく狭いもの”であるため1字下げて表示するけれども、47都道府県名をすべて挙げるわけにはいかない、ということなども審議されました。
“要望のごく狭いもの”― 審議を傍聴する楽しみのひとつに、このような場で使用される、他と区別するときのネーミングの面白さがあります。“県名のための”は3月4日のエントリに書きましたので、ここでは、要望のごく狭いものと理解されるため省きます。
東京
都内の会社に勤務していると、わりと気軽に審議を傍聴することができます。しかし、地方在住の方はそう簡単にはまいりませんから、その代わり、この報告を楽しみにしている!という方が全国にいてくださることを知り、上の書き出しになりました(といっても、国語のオリンピックを見てくるわけではないので、今日の見どころとか、委員の今日の表情とかは書けませんけれども…。)
(福島)
2008年10月16日
アナリスト・カバリッジ
企業のIR活動
タイトルを見て「それ知ってる!」という方は、まだそれほど多くはないのではないでしょうか。
企業のIR活動(投資家への公平な情報提供)の一環として、「アナリスト・カバリッジ」のコーナーを設けるサイトが増えてきています。
アナリスト・カバリッジとは、その企業の業績について論評しているアナリストや組織名・記事などを列挙して、情報量が企業と比べて少ないといわれる投資家の便宜を図ろう、というものです。
内容は、
1 論評している人(組織)のリスト・記事
2 1の内容に関する企業の立場の「表明」
などがメインであり、2の「表明」は、これらの“他者による論評”に対して、企業は一切の責任を負わない、という企業の責任放棄を明文化したものです。
表明
企業が、自身の立場を明確にして、文書で公言することを「表明」する、といいますが、これらの表明型の文書は、もとの文書が英語であることが多く、かつ、英語も日本語も定型であることが多いものです。
連用中止法
複数のサイトを閲覧していて、これらの定型化された日本語の中に、ちょっと“ヒヤリハット”した部分がありますので、書いてみました。読者の方のご意見もお聞きしてみたい部分です。
アナリスト・カバリッジこれらの情報の掲示は、当社の業績などを分析または予測する企業あるいは調査機関(組織)のアナリストを、投資家の皆様にご紹介するという趣旨にのみもとづいての情報提供を目的としており、当社の株式の売買を勧誘・推奨するものではありません。また、当社はこれらアナリストの予測、意見もしくは推奨などを支持し、また、それらの情報の整合性を保証するものではありません。
ご注目いただきたいのは、「当社は、これらアナリストの予測、意見もしくは推奨などを支持し、また、~するものではありません」の部分の、「支持し、」という連用中止表現です。
この文の言わんとするところは、「会社はこれらのアナリストの予測・意見・推奨などを、支持するものではなく、かつ、これらの情報の整合性を保証するものでもない」という、“not~、nor~”(~でもなければ、~でもない)の形であるはず、と思い英語も調べてみました。
海外のサイトでも、ほぼパターン化した英語が使われていました。
The ABC Company is followed by the analyst(s) listed above. Please note that any opinions, estimates or forecasts regarding The ABC Company's performance made by these analysts are theirs alone and do not represent opinions, forecasts or predictions of The ABC Company or its management. The ABC Company does not by its reference above or distribution imply its endorsement of or concurrence with such information, conclusions or recommendations.
(ABCのところが企業名)
英文中の
“do not represent opinions, forecasts or predictions of The ABC Company”
“ does not by its reference above or distribution imply its endorsement of or concurrence with such information, conclusions or recommendations.”
のように、似たような動詞を羅列する書き方は、訴訟社会アメリカならではの、念には念を入れた結果だと思われますが、これが日本語に与える影響が、ちと、問題になることがあります。
日本語をかくときもこれと同じように「~し、~し」と、連用中止形をつかってエンエンと文章をつなげて書く人が多いのです。連用中止とは、「~し」のあとにつづく内容を省略して表現したもので、省略された部分が容易に想像されるものであるためには、この形を使用するシーンは制限されなければならないものです。
リライト
「当社は、これらアナリストの予測、意見もしくは推奨などを支持し、」の問題は、会社は支持するとも読めてしまうことです。
「当社はこれらアナリストの予測、意見もしくは推奨などを支持しています。それらの情報の整合性を保証するものではありません。」
と読めなくはないことに、ぜひ注意したいところだと思いました。
責任の放棄
上のような誤読を避けるため、否定するところはきっちり否定することが重要です。
「会社は、これらのアナリストの予測・意見・推奨などを支持するものではなく、これらの情報の整合性を保証するものでもありません」ぐらいに、きっぱりとリライトしたほうがいい部分でしょう。
セミナー
さて、10月24日に、Webテキスト品質向上セミナーを開催いたします。「日本語の専門家でもなければライターでもない」講師で恐縮ではございますが、このような身近な問題をごいっしょに考える機会として、よろしければ、お出かけくださいませ。
(福島)
